つみたてNISA・投資信託の出口戦略の王道は『4%ルール』です。
毎年4%取り崩していけば資産を減らさせずに生活することが出来るというものです。
しかしこの4%ルールはアメリカで発表されたものであり日本に住む私たちには当てはまらない可能性があります。
何故当てはまらないのか?失敗する確率は?日本人がやるべき取り崩し方法は?
これらについて解説していきます。
4%ルールとは?
そもそも4%ルールとは、1998年にアメリカ”トリニティ大学”の教授3人の研究『トリニティスタディ』が元になっています。
研究結果
リタイア時(退職時)に資産の4%を毎年取り崩しても、ほとんどの確率で、30年後に資産が残っていた!というものです。
例として
50歳男性:資産6000万円でリタイア。資産6000万円の4%=毎年240万円
年間240万円ずつ取り崩していっても、30年後の80歳時点で資産が残っている!
しかも資産が残っているだけではなく、資産の残高が8倍になっているケースもあります!
仮に6000万円を銀行に預けていると、毎年240万円ずつ取り崩していけば、すぐに資産は底をついてしまうので資産運用をしながら取り崩すのがいかに優れているかが分かります。
4%ルールの前提条件
トリニティスタディの前提条件があります。
投資先
投資先は優良インデックスファンドである。
株式はS&P500。債券は高格付けの米国社債。
※どこに投資しても4%ルールが適用されるわけでは無いです。
成功の定義
”資産の取り崩し額が、”0ドルを超えている場合”、成功とする。
つまり取り崩し時に資産が底をつかなければ大丈夫という事です。
取り崩し方法
4%ルールにはリタイア時の取り崩し方法が2種類あります。
定額法
リタイア時の資産の4%を毎年定額で取り崩す。
メリット:毎年一定の金額を取り崩すため、シミュレーションがしやすい
デメリット:暴落時にも同じ金額を取り崩すため、成功率は下がる。
定率法
毎年の資産残高の4%を毎年定率で取り崩す。
メリット:暴落時に株価に合わせて取り崩し額が少なくて済むため、成功率が上がる。
デメリット:取り崩し額が一定ではない為、生活が株価に左右される。
ちなみにトリニティスタディでは『定額法』が採用されています。
4%ルールの研究結果

左の数字は株式と債券の比率を表します。(上が株式100%下が債券100%)
上の数字、3%・4%・5%などは取り崩し率を表します。
注目すべきは4%の部分です。
何処を切り取っても成功率は98%~100%と高い数字を叩き出していることが分かります。
つまりリタイア時の資産の4%を毎年取り崩しても、30年後資産が無くなることは、ほぼ無いと言い切ることが出来ます。
最新データ
先ほどのトリニティスタディのデータは1926年~1995年のデータを基に作成された表です。
1998年の論文であり少し古いと感じると思います。

こちらの表は別の研究者によってアップデートされたEarly retirement nowというサイトで公開されたデータになります。
表の見方は先ほどと同じになっています。期間は1871年~2015年までです。
2015年までのデータということは、ITバブルやリーマンショックも含まれています。
更にリタイア後、60年間までのデータがあることで例えば40歳にリタイア出来たとして100歳までのシミュレーションが出来るという事です。
成功率を色で表しており、緑色が成功しやすく赤に近づくほど失敗しやすいということです。
それを踏まえると、株式の比率は75%~100%を狙いたいところです。
取り崩し4%の部分を見てみましょう。
株式100%と75%で”30年後”の成功率を比較してみると株式75%の方が99%と高いです。
しかし”60年後”の成功率を比較してみると株式100%の方が89%と高くなります。
つまり、”長期間”資産を取り崩していく場合は株式100%の方が成功率が高いというわけです。
しかし、成功率が高いと言っても4%ずつ取り崩した場合、最高でも89%ですので10人に1人が失敗してしまうということです。
Early retirement nowというサイトを翻訳すると、『60年の退職期間では、3.5%が新しい4%です』と書かれています。
40歳や50歳でリタイアするとその後の期間が50年~60年と長期に渡って取り崩さなくてはいけないので、4%よりも3.5%で取り崩したほうが安全と言っています。
実際に表を見てみると、3.5%ずつ取り崩した場合の成功率は格段に上がります。
これが最新版の4%ルール改め『3.5%ルール』というわけです。
しかし日本人はさらに取り崩し率を下げなくてはいけません!!
この研究の舞台は『アメリカ』であり、アメリカ人にのみ対応しているので注意しましょう!
日本の4%ルールの問題点
- インフレ率
- 為替リスク
- 運用コスト
- 税金
この4つは日本に住んでいるなら避けることは出来ない問題点です。
インフレ率
インフレ率とは、物価の上昇率(モノの値段の上がり具合)
例えばコーラが一本100円で買えるのに来年には103円に値上がりするとインフレ率は3%です。
物の値段が3%上がるとお金の価値が3%下がります。
その場合、取り崩し率も3%少なくしないといけなくなります。
日本とアメリカのインフレ率の平均
アメリカ:インフレ率3%
日本:インフレ率1%
その差は2%です。
アメリカの4%ルールの元となる計算は、株式と債券から得られる期待リターンが7%で、そこにインフレ率3%を引いたものが4%となります。
では日本で考えると期待リターン7%に対してインフレ率1%なので6%で取り崩しても大丈夫ということなのか?と疑問に思う人が居るかもしれませんが『危険』です。
次の項目に行ってみましょう!
為替リスク
為替リスクとは、円とドルの交換比率が変わってしまった時に『ドル建ての資産の価値』が下がってしまうことです。
言葉にすると難しいのでこちらのグラフを見てください。

こちらのグラフは青線がS&P500指数、緑線が円換算したS&P500指数です。
見て分かる通り、全く違う値動きをしています。
例えば、1ドル100円の時にS&P500を買って、1ドル80円の時にS&P500を売ると為替リスクによって-20%の損失が発生します。
よくある勘違いとしてS&P500やVTIなどを、円で買っていると思い込む人が居ますが、実際には自動でドルに両替してドル建てで購入しています。
日本に住んで外国に投資する以上、為替リスクを避けることは出来ません。
重要な事なので覚えておきましょう
為替の相場は、2国間(日本とアメリカ)における物価の変化に連動します。(相対的購買力平価)
- 日本のインフレ率が低く、アメリカのインフレ率が高い
- ↓
- ドルの価値は下がる
- ↓
- 円高に進む=為替リスク=損をする
インフレ率を見るとアメリカが3%に対して日本は1%と有利です。
しかしその分、為替をみると日本は不利になります。
この構図は短期間で見れば相関しない事もあるのですが、20年30年という長期で見ると相関してきます。
リタイア後の期間が長ければ長いほど、インフレ率の+と為替リスクの-で結果的に相殺するので取り崩し率は変わらないと言えます。
運用コスト
運用コストとは、信託報酬や売買委託手数料などの『実質コスト』の事です。
投資信託で有名なeMAXIS Slimシリーズの実質コスト
- 米国株式(S&P500):0.140%
- 全世界株式(オールカントリー):0.204%
約0.2%を考慮しておけば問題ないでしょう。
税金
資産の売却時に得た利益に対してかかる税金のことです。
- アメリカ:税金無し
- 日本:20.315%
NISA・つみたてNISAを使えば制度の限度額までは非課税になりますが、FIREを目指す人にとっては投資額が大きくなり非課税枠を超えてしまうので『税金』も考慮しなくてはいけません。
つみたてNISAを活用した場合を例として
独身:資産4000万円でFIREと仮定する
毎月10万円を20年間、年利5%で運用した場合
年間投資額120万円
つみたてNISAの40万円分が非課税
残り80万円の投資で得た利益に対して20.315%の税金がかかる
この条件で計算をすると、取り崩し率から約0.3%差し引く必要があります。
結論
60年間の安全な取り崩し率は3.5%
そこから運用コスト0.2%、税金0.3%を差し引くと3%となります。
つまり日本においての最適解は3%ルールとなります。
FIRE達成基準
FIREを達成するための資産額は年間生活費の25倍と言われています。
これは4%ルールで言われる数字となっています。
年間生活費300万円の夫婦の場合(月25万円)
300万円×25倍=7500万円です。
しかしこれを3%に直すと年間生活費の33.3倍になります。
300万円×33.3倍=1億円となります。
3%と4%で2500万円の差が生まれてしまいました。
取り崩し方法を4%ルールで考えていた人は失敗する可能性があるので注意しましょう。
まとめ
- 取り崩し方法で有名な4%ルールはアメリカで出来たもの
- アメリカではその後の研究で4%より3.5%で取り崩したほうが安全という結果が出ている
- 日本で投資をする場合、アメリカとは異なり、為替リスク・運用コスト・税金などがかかるので0.5%を差し引いておいたほうが安全である
- つまり日本での取り崩し率は3%が安全である
FIREを達成後に資産が無くなるのは絶対に阻止しなくてはいけません。
4%ルールでリタイアを考えていた人が、いきなり3%ルールで考えようと言われても資産額が大幅に増えるため納得しないかもしれません。
しかしリタイア後、安全に長期間生活するためにも3%ルールを一考して欲しいです。
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